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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)70240号 判決 1973年4月11日

原告 荒川区自転車工業協同組合

右代表者代表理事 栗原金次郎

右訴訟代理人弁護士 宮原三男

被告 殿塚精機株式会社

右代表者代表取締役 殿塚元伸こと 殿塚三良

右訴訟代理人弁護士 上代琢禅

同 浜田源治郎

同 黒木芳男

主文

原被告間の当裁判所昭和四七年(手ワ)第二三〇号約束手形金請求事件の手形判決を取り消す。

原告の本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁判および事実上の主張は、主文掲記の手形判決の事実摘示のとおりであるからここに右記載を引用する。

二  立証≪省略≫

理由

一  原告主張の請求原因事実は当事者間に争いのないところである。

二  進んで被告主張の抗弁について判断する。

1  被告は、原告は期限後裏書による本件手形の所持人であることを前提として、被告主張の抗弁をもって対抗しうる旨を主張するので、まず前提事実たる期限後裏書の点につき検討するに、成立に争いのない甲第一号証(本件手形)によれば、本件手形面上、所持人たる原告を被裏書人とする訴外昌栄精機株式会社代表取締役糸井繁春の裏書記載があり、右裏書には日附の記載がないことを認めることができるので、右裏書は支払拒絶証書作成期間経過前になされたものと推定されるところである。

更に≪証拠省略≫を総合すれば、本件手形は満期に手形交換にまわされた当時は、本件手形の第一裏書欄は抹消され、第二裏書欄に受取人たる訴外昌栄精機株式会社の裏書があり、同被裏書人欄は白地であったこと、本件手形面には交換印が押捺され、昭和四六年一〇月一二日付をもって、契約不履行を理由とする支払拒絶の旨を記載した株式会社大和銀行北沢支店作成名義の符箋が貼附され同支店の割印が押捺されていることを認めることができる。右認定事実によれば、特段の事情の認めるべき証拠のない本件においては、原告の裏書は右支払拒絶の符箋が本件手形に貼附された後になされたものとみるのが相当である。

ところで手形法二〇条一項の規定が「……支払拒絶証書作成後ノ裏書又ハ支払拒絶証書作成期間経過後ノ裏書ハ指名債権譲渡ノ効力ノミヲ有ス」と定めているのは、右のごとき裏書については既に手形が遡求段階に入り手形の流通促進ないし保護をはかる要をみないとすることに由来するものである。

現今、約束手形については全国銀行協会連合会所定の統一手形用紙制度が採用せられ、流通におかれた統一手形用紙による約束手形の大部分は手形交換を通じて決済せられているが、たまたま不渡手形が生じたときは、東京手形交換所についていえば同交換所規則五二条、同規則施行細則五九条に準拠し持帰銀行により前記認定のごとき支払拒絶の符箋が当該不渡手形に貼附されることになっている。これが取引の実態であり、持帰銀行の右のごとき措置により支払拒絶が手形面上明白となり、これを契機として遡求段階に入る建前となっていることは周知のところである。従って右のごとく手形面上支払拒絶が明白となった場合、その後になされた裏書については手形法二〇条一項の前記趣旨に鑑み同条に定める「支払拒絶証書作成後」に準じて指名債権譲渡の効力のみを有すると解するのが相当である。

右見解に立脚して考えれば、本件手形が、前記認定のごとく株式会社大和銀行北沢支店作成の支払拒絶の符箋貼附後原告に裏書されたものである以上、右裏書は期限後裏書とみるのが相当である。

2  そこで被告主張の抗弁について検討するに、≪証拠省略≫を総合すれば、被告は昭和四六年四月三日訴外昌栄精機株式会社に対しヘッター六台の製作を注文し、その前渡金として金額合計金五、〇二六、五六〇円の約束手形を振出し、本件手形はそのうちの一通であったこと、右訴外会社は同年五月一二日頃倒産したため被告に対しその注文にかかるヘッターの製作引渡をすることができなかったことを認めることができ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、右訴外会社は被告に対し本件手形を返還すべく、被告は右訴外会社に対して本件手形金の支払義務を負わないと解すべきである。

そして、前記認定のごとく原告は期限後裏書により本件手形を取得したものである以上、被告は右訴外会社に対する抗弁をもって原告に対抗しうる筋合であり、被告は原告に対し本件手形金を支払うべき義務はない。被告のこの点に関する抗弁は理由がある。

よって原告の本訴請求は失当として棄却すべく、民訴法四五七条二項、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井口源一郎)

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